入院生活

肝臓移植の提案を医師にされ、精神が崩壊した話

※この記事は前回の続きです。前回はこちら。

僕がブラック企業で働き、医者から命を落とすと言われた話

 

入院生活が始まる

気がつくと、ベッドの上にいた。

どうやってこのベッドまで来たのか覚えていない。

話を聞くと、"自分で歩ける"と言って一人で病室まで歩いたらしい。

どこまで自分はバカなんだと、少し呆れつつも笑えた。

 

笑ったのはいつぶりだろうか。

これでもう辛い思いをしなくて済む。そう思うと、気持ちが安心したのだ。

 

しばらくして、担当医が挨拶に来た。随分若い医師だ。僕より2.3歳年上のように感じる。

それでも、しっかりした方だった。

 

医師「この病気だと、退院までは3週間ぐらいかかると思います」

3週間…そうか、髄膜炎の時と同じような感じなのか。あの頃のような後遺症が残らないといいな。

そんなことを考えながら、今後の治療計画を聞いていた。

 

慣れない入院生活。相変わらず夜は痒みで眠れず、昼間に寝るような生活だ。

先生が毎日回診に来ると、

医師「寝れないかもしれませんが、ちゃんと夜は寝てくださいね。昼寝は極力控えてください。」

と念押ししてくるのが日課だった。

 

そして、念押しが終わると先生は決まって僕によくわからないポーズをさせるのも日課だった。

目を閉じて、手を前に出す。キョンシーのようなポーズで、手先をピンと伸ばす。

そうすると、先生が僕の手を叩き、僕の手が揺れる

強く叩く日もあれば、優しく叩く日もある。

これが一体何を表しているのかが僕にはわからなかった。

 

先生に聞いても、

医師「肝臓状態のチェックです。まだ大丈夫ですね。」

の一点張りだった。

よくわからないが、まだ大丈夫なら別にいいや…そう思っていた。

 

入院してからは、医師から肝臓についてたくさんのことを教えてもらった。

おかげで、血液検査の数値が何を表しているのかを何となくだが把握できるようにもなった。

 

だからこそ、僕は不安だったのかもしれない。

 

どれだけ日が経っても、数値が良くならない。むしろ、どんどん悪化していくのだ。

入院する前より随分気持ちも晴れて楽になったような気がしていたが、どうやらそれは勘違いだったようだ。

 

日に日に増えていく数値は、この後僕にとって聞いたことのない衝撃を与えることになる。

 

大事な話

医師「家族を呼んでください」

 

医師からそう言われた。僕は東京に住んでいて、実家は関西だ。そう簡単に来れるものではない。

 

[lnvoicel icon="https://apainidia.com/wp-content/uploads/2018/06/IMG_0029-e1528805215689.jpg" name="だいすけ"]家族は関西にいるので、お話があるなら電話ではダメでしょうか?[/lnvoicel]

医師「ダメです。それでも、家族を呼んでください。大切なお話があります」

 

きっと、何か良くないことがあるのだろう。僕は姉を呼んだ。

僕より4つ歳上の姉。言い争いが多くて決して”仲の良い姉弟”ではなかったが、姉に頼むしかなかった。

父親とはもう何年も話をしていなかったし、何より僕は小さい頃から母親っ子だった。だからこそ母には良くない話を聞かせたくなかった。

 

姉に電話をする。入院していることは家族に伝えていたので話はスムーズだった。

 

[lnvoicel icon="https://apainidia.com/wp-content/uploads/2018/06/IMG_0029-e1528805215689.jpg" name="だいすけ"]もしもし、姉ちゃん?悪いんやけどちょっとこっちまで来てくれへんかな。先生が家族と話したいらしくて[/lnvoicel]

姉「何の話なん?」

 

[lnvoicel icon="https://apainidia.com/wp-content/uploads/2018/06/IMG_0029-e1528805215689.jpg" name="だいすけ"]わからん。まぁ…多分あんまりええ話ちゃうけどな[/lnvoicel]

姉「わかった。行くわ。」

 

そんな淡々とした電話の数日後、姉は東京の僕が入院している病院まで来てくれた。

残酷な事実

姉はすぐに来てくれた。久しぶりに会う姉だ。

少し会話をした後、医師に姉が来たことを伝えて部屋を移動した。

向かった先はパソコンと机と椅子が置いてあるだけの殺風景な部屋。

 

そこにはいつもの担当医だけでなく、知らない医師もいた。

おそらく風貌や担当医の態度からしてかなり上の立場の人なんだろう。

 

そんなことを考えていると、担当医が開口一番で姉にこう言った

医師「お姉さん、急にこんな話をするのは大変心苦しいんですが…」

医師「このままだと、弟さんは意識がなくなります。そして、その予兆がもう見えています」

 

僕と姉は驚いた。

 

意識がなくなる…?

 

どういうことかを聞くと、どうやら肝性脳症を発症している可能性があるとのことだった。

肝性脳症…肝障害が神経を犯すようなものだと考えてもらえればいい。

レベルが5段階まであり、レベル3になると昏睡状態になるそうだ。

先生は教えてくれた。

  • 昼夜逆転の生活になっていること
  • 辛いはずなのに、なんだか楽しそうなこと
  • ヤケになっている日が増えてきたとこと
  • 手先の感覚が少しだけ鈍い日があること

 

これらはすべて、肝性脳症の症状らしい。

僕の手先を叩くのは、レベル2を発症しているかどうかのチェックだったそうだ。そして、僕はもうすぐレベル2になるということを聞いた。

医師「レベルが2になると、日中も少しずつ意識がなくなっていきます。」

医師「レベルが3になった人は意識がもうほとんどありません。意識はありませんが、幻覚を見るようになって暴れる可能性があるのでICU(集中治療室)に移動してもらうことになります。」

 

医師「そして、昏睡状態になってしまった場合は血液を人工的に透析します。もう自分の体では毒素を浄化できないのです。」

 

[lnvoicel icon="https://apainidia.com/wp-content/uploads/2018/06/IMG_0029-e1528805215689.jpg" name="だいすけ"]透析をすれば、治るんでしょうか?[/lnvoicel]

医師「いえ、透析すれば治るというものではありません。完治するためには肝臓移植が必要になります。」

 

 

(肝臓移植…?)

 

 

医師「移植の必要性があるからこそ、今日ご家族の方をお呼びさせていただきました。」

 

  • 肝臓は一部を切り取っても残りの部分が正常に機能してくれること
  • 移植をしたからと言って、生存する確率が決して高くないこと

医師は、これらを淡々と説明してくれた。

そして最後に、こう言った。

 

肝臓移植には、移植する側とされる側、双方の合意が必要になります。

だからこそ、今の間に…まだ意識があるうちに…、合意をして置いて欲しいのです。

 

肝臓移植は骨髄移植などとは違って親族であれば適合する可能性が非常に高い。血液型の相性さえよければほぼ問題なく適合するそうだ。

ただ、適合したから移植すればいいものではない。

 

何百万も支払い、必ず助かるとも限らないハイリスクな手術をする…

 

そんな時、僕は考えた。

一体、僕が何をしたというのか

なぜ僕だけがこんなに辛い思いをしないといけないのか

そして、こんな辛い思いすらもうすぐ感じられなくなてしまうのか

死ぬことすら、簡単にさせてもらえないなんて…

 

そう考えている時だった。

「私の肝臓でよければ、いくらでも使ってください」

姉は、そう言った。

 

いつも喧嘩や言い争いばかりして、強気な姉。

そんな姉の声が少しだけ震えていたような気がした。

 

 

もう耐えられなかった。

姉の震える声を聞き、僕はもう耐えられなかった。

そして、耐えられずに僕はこう言った。

 

[lnvoicel icon="https://apainidia.com/wp-content/uploads/2018/06/IMG_0029-e1528805215689.jpg" name="だいすけ"]僕は移植を受けません[/lnvoicel]

 

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